公明党元委員長が見た池田名誉会長
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公明党元委員長 矢野氏
手記 「創価学会名誉会長 池田大作と
競争させて忠誠を尽くさせる

 会場にいる人間をしばしば名指ししては、持ち上げたり貶めたりするのも池田氏の演説の特徴だ。こちらはそれに対し、一喜一憂である。
 「矢野は最近、よくやっている」
と言われれば天にも上る心地になる。だが私が書記長当時、横には竹入義勝氏(元公明党委員長)が座っているのに、そういう時は池田氏の口からは「竹入」の「た」の字も出てこない。部下の私だけ誉められたということは、竹入氏は暗に批判されたも同然で、どっと落ち込んでしまう。
 ある意味、叱られても名前が出ただけまだいい、という感覚が我々にはあった。自分の名前を覚えていてくれた、先生が意識していてくれた、ということになるからだ。一番こたえるのが無視されることなのである。
 だがそうして竹入氏を貶めたとしても、ずっとそのままということはまずない。次の機会ではたいてい、
 「竹入はがんばっている」
という話になる。今度は私が、
 「それに比べて矢野は要らんことばかりしやがって」
とやられてしまうわけだ。立場が逆転である。
 このように誉めるのと叱るのとを、池田氏は一定期間ごとに、交互に繰り返す。誰が見ても池田氏に次ぐ2番手、つまりセカンドマンはこの人だという者は絶対に作らない。公衆の面前で罵倒して潰す。かくして池田氏とその他大勢との差は無限の距離に開き、独裁的な権力は強化され続ける。叱られ役専門のような立場の者もいたことはいたが、そういう人はたいてい信心が篤く、我々からもやはりあいつは偉いな、と評価されていた。
 これは私が幹部会に出席しなくなってからの話だが、2005年7月、1人の幹部が池田氏から1時間にわたって罵倒された事件があったという。
 『週刊新潮』(H17.8.4)が報じたところによれば、“被害者”は異例の若さで男子部長に抜擢された、輝かしい経歴を有す弓谷照彦氏。創価高校から東大に合格しながら、これを蹴って創価大学に進んだというエピソードの持ち主だ。学会内では当然、美談である。池田氏の覚えもめでたく、前述の通り異例の出世街道を驀進(ばくしん)する最中だった。ところが、彼が4人もの女性に次々手をつけており、それも池田氏側近の、お気に入りの女性だったという。私には真偽の程はわからないが、池田氏にすれば、「飼い犬に手を咬(か)まれた心境」だったのかも知れない。
 「ケダモノ」「犬畜生」
 悪口の限りを尽くして満座の中で痛罵されたというから、弓谷氏の恐怖たるやいかばかりだったか。失禁の1つくらい、したとしてもおかしくはない。報道が事実ならば、彼のやったことは言い訳のしようもなく、叱られて降格の処分も当然とは思うが、あの恐ろしさを身に沁みて知っている私からすれば、ちょっと同情の念も湧かないではない。それに罵っているのが誰より、女性問題では1度ならず週刊誌などに取り上げられてきた張本人ではないか。
 だがまあこれは異例のケース。たいていは持ち上げられたら落とされる。2〜3ヵ月周期の波に我々は翻弄される。こちらは誉められたら喜び、叱られたらしょげる。子供のようなものだ。誉められたら発奮してがんばるし、叱られたら挽回しようと意気込む。これこそマインドコントロールであろう。一部だけを突出させることなく、みなを競争させながら忠誠を尽くさせる。見事と言うしかない手腕である。
 こうした「池田先生のお話」が毎回、ほぼ1時間である。我々は一喜一憂して、引き込まれるように聞き惚れる。
 この模様は、全国にも生中継されていた。文化会館などの、創価学会の所有する会館が全国に約1000ヵ所あるが、ほとんどの会館に衛星放送を受信できる設備が備えてある。
 中心的な会館には500人から1000人くらい入る大会場がある。ここに巨大なスクリーンがあって、衛星経由で送られた本部幹部会の映像が映し出される。あたかも自分も幹部会に出席しているような臨場感を味わえるという仕組みだ。幹部会に出席しない公明党議員も、この衛星放送は必ず見るように義務付けられていた。後で感想文を提出させられたこともあった。
 そうして多くの学会員一人一人が、池田氏と対面しているような錯覚に陥る。電波を通じて集団洗脳しているようなものである。考えてみれば恐ろしい光景ではないか。
 もっとも最近では、この生中継は行われなくなったらしい。話の脱線、不適切発言があまりに多過ぎるせいだという。
 例えば1993年8月8日の第69回本部幹部会における、「デエジン発言」というものがあった。同年7月18日に実施された第40回衆議院議員選挙において、自民党が惨敗。議席の過半数を取れず、8月9日に細川護熙氏を首相にいただく非自民連立政権が発足した。その前日の幹部会で、
 「すごい時代に入りました。ねー、そのうちデエジンも何人か出るでしょう。ねーもうじきです、明日あたり出るから。みんな、みなさんの部下ですから、そのつもりで」
と発言。さらに「労働大臣、総務(庁)長官、郵政大臣」と石田幸四郎委員長ら公明党議員が就任する大臣ポストを発表してしまったのである。政権発足の前日に公明党が大臣ポストを獲得する約束ができていると暴露してしまったばかりか、大臣を「デエジン」よばわり。しかもそれは「学会員の部下だ」と軽視してみせたわけで、発言を録音したテープが流出し、亀井静香衆院議員が国会で追及するなど、世間でもかなり問題視された。
 こうしたことが続いたため、今では幹部会の模様は録画され、編集されてから全国の会館に送られるようになった。また最近は、事前に用意された演説原稿をそのまま朗読することも多くなったと聞いた。それも最初のところだけ数分間読んで、後は長谷川副理事長に代読させることも多い、とか。
 やはり年齢的にも、1時間も好き放題に喋り続けるのは体力的に苦しくなってきたということなのだろうか。脱線が多いというが、あの脱線こそ池田演説の真骨頂だったのだが。生の池田演説の面白さを知っている身からすれば、あれが聞けなくなった最近の幹部会は気の毒なように思えなくもない。
 ともあれこうして、幹部会の映像を全国に送ることで、池田氏のカリスマ性が現場と密着する。学会ではそういう仕組みを長年にわたって、築き上げてきたのだ。


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